雪国歳時記前菜12ヶ月
9月
お月見
10月
松村 景文 筆
満月の図
香川 景樹 画賛
9月に入ってもまだ残暑がきびしいですが、お料理は秋らしくお月見の趣向です。
萩の蒔絵皿に、月に形とったさつま芋蜜煮、
黒崎茶豆を萩の花に見立てたしんじょ、この頃、裏山で取れる茗荷寿司
海老のカラスミ焼きなどを。 兎や琵琶の器に秋刀魚の卯の花和え、
百合根で作る小さな月見だんごなどおだしいたします。
中旬ごろは田圃では稲刈りがはじまり、
米どころ 新潟では1年でいちばんハレの季節と言えます。
お彼岸が過ぎ新米が届けられる頃はぐっと涼しくなり秋めいてまいります。
稲刈りの終わった田圃が続く新潟平野はどこかのんびりとした風情があると思います。
松茸の土瓶蒸しなど。
土瓶蒸しと言うと関西では鱧や菊菜など入りますが
弓月の土瓶蒸しの中は、新潟らしく
秋鮭、南蛮海老 かしわが入ります。
世泰時豊
尾竹竹坡 筆
中村不折 字題
吹き寄せ
いよいよ秋も深まり 里山からきのこや里の実が採れます。
出湯温泉は温泉街と呼ぶより温泉がある小さな山村という感じのところですので
夕暮れ時の田舎の山村の空気感は独特のものがあります。
吹き寄せは色々な物が風に吹き寄せられたところから名づけられたと聞きます。
ここでは魚のすり身とそうめんで作るいが栗や新潟名物のかきのもと菊と小鯛の
手毬寿司、郷土料理の新よのこ塩漬けなど 一つの籠の中に
実り、紅葉、落葉など秋の風情を盛り込みます。
11月
板倉 星光 筆
洛外 紅葉狩
新鮭の新潟郷土料理三種
酒びたし・白子とうふ
ととまめと氷頭なます
これらはお料理の途中で出せれる場合、「八寸」と呼ばれ茶懐石の形式からきたものです。
ここでは茶を基調としながら 形式にとらわれずに、様々な器や調理法を使い 季節やそれにまつわる
行事を映した趣向を取り入れています。色とりどりのプチキューイジンヌのなかには
時期の新潟の珍味・佳肴をお楽しみいただけるよう心がけています。
弓月ではご夕食のスタートに先付・前采として7種〜9種ほどの小さなお料理をお出しいたします。
重陽 菊まつり
この季節 新潟特産のかきのもと菊が本番です。
とくに五頭のある笹神産は有名です。
毎年 玄関飾りにたくさんの小菊の鉢植えを
飾ります。いつも五泉の農家のかたから
買いますがなかなか栽培の難しいものと聞いております。
お料理:
あんこう肝 たらのこ旨煮 むかご擬製豆腐
栗きんとん 菊花まんじゅう など
11月に入りますと寒さがつのります。
出湯温泉の紅葉は大体15日くらいで終わり。
もう冬はすぐそこです。
弓月のよのこ: よのことは「いくら」鮭の卵のことです。秋のなると鮭が新潟の川に産卵のため帰ってきます。
毎年10月〜11月のかけて その鮭の卵を塩付けにし 保存します。私共では新潟の昔ながらの味として
伊万里ののぞき猪口などにいれお出しいたします。普通 すし屋で食べるいくらからすると ずいぶんしょっぱい
味と感じられるお客様も多いようです。
私共はたえず、古来からの料理に 新しい調理法をもちいて工夫していますが 昔ながらの味を伝承していく
事も大事なことと思います。強めの塩付けにするのは冬の保存食のためです。ゆでたよのこは「とと豆」とよび
のっぺ汁や雑煮などのいれ 一味違う郷土の味です。